8月30日 『メイビー、ハッピーエンディング』
久しぶりに、あんなに「完璧だ」と思える舞台でした。
もちろん、演者は常にハイクオリティです。
でも、芸術って受け取り手の状態によってもかわるじゃないですか。
体調を含めた自分の集中力とか、精神状態とか。吸い込む態勢ができていて、はじめて繊細な部分が受け取れるのではなかろうか。
さて、大千秋楽であったこの回、完璧でした。完璧すぎて、完璧さが衝撃過ぎて、メロディーと映像が頭の中でリフレイン3日目です。
ストーリーをおさらいしつつ、だらだら語っていきます。ネタバレ含みます。
舞台は韓国、ソウル(韓国発のミュージカルのため)。旧型のヘルパーロボットが住むアパート。
毎日同じルーティンを繰り返しながら持ち主(ジェームズ)の迎えを待つ日々を過ごす主人公のオリバー(浦井健治)。
平穏な日々、変化のない日々。それを一番の幸せだととらえて過ごす。暖かな日差しと、唯一の親友である植木鉢と、ジェームズの好きだったレコード。
全部見てから冒頭に戻ると彼は、この時は思い出のなかだけで生きていたように思う。ジェームズとの思い出を胸に、来るべき日(ジェームズの迎えか、自分の終わりか)がどちらが先でも良いと思っていたんではないか?子が親の帰りを待つような無垢な期待と、数%、現実がうっすらと見えてしまっている寂しさを含んでいる。そんな印象を受ける。
あるとき平穏な日々を崩す、ドアを叩く音が響く。「充電器が壊れちゃったの!」と、オリバーよりは新型のロボット、クレア登場。
どうやらクレアは5、オリバーは3というタイプのヘルパーロボットで、3は古いゆえにクラシック、耐久性に秀でている。
5は、3と比較して充電速度や容量をUPした結果、経年劣化に弱いという弱点が。しかし、GPS内蔵、車の運転もできちゃうハイテクぶり。
はじめて会うクレアに対して、公演前半日程ではオリバーが抱く感情としては「恐怖」が強かった印象。でも、楽日はわずかに「好奇心」が見え隠れ。
平穏な日々を過ごすオリバーのもとに突如現れた嵐。
「仕方なく」助けてあげたオリバーは、そのあとも充電器がなおるまで、きっちり彼の計画通りに従うのなら、充電器を貸してあげるという約束をする。
(この約束をするためにPVにある糸電話のくだりが入るわけだが、時期的にソーシャルディスタンス!でも、それだけでなく距離感をもちたいオリバーの表現なんだろうけど、、、地声で聞こえるのにやんややんややっている2人はとにかく人間味があって可愛い。小さいころ同じようなことをやったことある世代はきっとほっこりするはず。)
1分の狂いもなく、毎日毎日行われる充電器の貸し借り。同じやりとり。
でも、きっちりと待っているのは常にオリバーで(たぶん5~10分前行動、もしかしたらもっと前?)、クレアはたとえばTVを見ていたり、考え事をしていたり、オリバーとのこと以外の自分の生活を主軸にしている様子。
そのなかでオリバーも、少しずつ相手をからかってみたり、状況を楽しみ始めている様子が見られた・・・と思ったら! ジョンが直してくれちゃったクレアの充電器。
ここで、2人の関係性は終わってしまう、と思いきや。
「1人でいることに飽きた」と素直に語るクレアが、オリバーにちょっかいを出し始める。そこでクレアが聞き出した、彼の目標である「友達に会いに行く」。
そして「友達」の問いに答えるあの歌が始まる。
ここの、ジェームズとオリバーのデュエットはサカケンさんver.(別日)は、父を待つ息子のような、少し大人びてみせようとするオリバー。斉藤さんver.では、本当に友達を待つ、ちょっと強がってみせるけど寂しいオーラ醸したオリバー、という印象を受けました。
歌の美しさはサカケンさん圧勝ですが、2人の関係性としては斉藤さんver.のほうが好みでした。斉藤さんVer.は、オリバーが会いたいよ!の気持ちを素直に感情を出している気がして。
そこから急展開、済州島に2人でドライブに!!!(いろいろ端折りました)
2人がロボットであることがばれないように、カップルに見せるために架空の出会いの話を再現しながら歌ううた。あれは憧れなのだろうか、劇的というか、非日常から恋に落ちる二人の話。
あの瞬間、何も聞こえない。
2人は出会った、あの、雨の日。
この架空の恋の歌と、のちに本当の恋を自覚したときの歌の温度感の違いよ。
映画やドラマで「見るもの」であった恋の、当事者になったとき。それは「わー!!」とテンションが上がるものではなく、「なんで、こんなふうに感じるんだろう」という「戸惑い」から始まるのであった。
ところで、どこでそうなったんだろう、この2人。
クレアは比較的早い段階、くるくると動く彼の愛くるしい表情に振り回されている感じはありましたが。
オリバーは??
思えば、ホテルのあたりからもうすでに、オリバーはクレアに対して甘えているように見える。「クレアがいれば大丈夫」と、安心しきっているような。
でも、決定的なのはやっぱりジェームズの一件の後なのかな。
オリバーはきっと、家族に言われたことよりも、ジェームズにもう会えないという事実のほうが堪えたんじゃないか。それで、もう完全に1人ぼっちになってしまったことを突き付けられたから。
「彼の迎えを待つ」という、人生最大の目的がなくなってしまった。
誰も僕を必要としていない。
蛍のシーンは、キャストのインタビューでも「命のはかなさの象徴」と伝えられている。消えていく命があり、それが有限だからこそ輝く瞬間がある。オリバーにとって輝く瞬間というのは、ジェームズとの日々だったんだろう。
絶望にいたオリバーと、同じように傷を負った経験があるクレアが、あの1匹の蛍によって希望を灯される、そんなシーンだったのではないかな、なんて。。
旅を終えて、2人が想いを伝えあうシーン。
前半の日程では、「ロボット的な」キスシーンだった。オリバーが「口づけた」という感じの。(ソーシャルディスタンスで、たぶん実際は口づけておらず、、宝塚スタイルの見せ方でした。手で隠す、男性役の後頭部で覆われる、みたいな。)
楽日のキスシーンは・・・・なんだあれは・・・・!!
宝塚スタイルは変わらないのですが、
クレアの頬に添えた片手、もう片手は・・・クレアの手をぎゅっと握ったまま、オリバーの心臓のあたりに。
なんだあれは・・・なんと感情的なシーンなんだ・・・
そしてそのあと。2人でおでこをくっつけあって。。。
ロボットって体温あるのかしら。心臓も血管もないから、、体温もきっとないはずなのに。
ただ「触れる」だけだった接触から、「互いを感じあう」あのやり方は、もう、人間のラブシーンでしたね。わざとそうしたのかな~。
そこからの先の展開は複数回観劇しているともう・・・・。
幸せなシーンでも心に影を落としていく。あぁ、近づいてくる。あの瞬間が。
たとえこの身が朽ち果てても。
穏やかに歌うオリバー、それに返すクレア。あれは永遠の愛を誓うシーンだったんじゃないかな。
あれは本当に、浦井さんにしか歌えない歌でした。優しさに溢れた歌。優しさと愛情だけ、先の保証も何もない。ただの優しさ。
あれが例えば別の人が歌っていたら「大丈夫、なんとかなる」となんとなく頼りになってしまうような。
なんともならない事柄について、それでも、「僕は」と気持ちを伝えるだけ。
なんの解決にもならない。だから儚い。泣ける。
でも・・・
そうやって、つらいつらいと思いながら2人で歌ったあの歌は、なんだったの!!
どうして「そうするしかない」という結論になっちゃったの!
どうして、そんなに辛そうな顔してまで、、なんでなのオリバー!!!
と、盛り上がる音楽の中で泣きながら思ったわけです。客席の私は。
1回目見たときは、本当にクレアはどっちなのか、わからなかった。
でも、ここからここまでっていう記憶を消しただけで時が戻ったわけじゃないんだから、充電器は実際壊れてないはずでは・・・?
というのと、2回目観劇時にみた、充電後のクレアの表情とか声のトーンでなんとなく。
お互いに探っていたあの時間。
幸せの裏の悲しみ。その悲しみを消すには幸せも消さないといけない。どちらを取るか、という問題ではないんだろうけど。
記憶を消すということは、自分が誰だかわからなくなることじゃない。
私は記憶を消したりなんかしないわ。
何気なく、彼女は言っていました、実は。2回目の観劇で初めて気づきましたけど。
記憶を消すということは、自分が生きてきた道を否定すること。
大切にしたい。自分の選んだ選択を。
でも、それに相手を巻き込んでもいいのか。
そういう風に考えた末でのあの決断だったんじゃないかと、私はとらえました。
そのあとの問い、からの 、優しい、 たぶんね。
2人とも、お互い同じ気持ち、覚悟。
なにが起きても、もう、ハッピーエンドでしょう!!
全編通して本当にメロディーが美しくて。
効果音としてのピアノやBGMとしてのストリングスの音も素敵でした。
あの蛍の光がわーって広がる瞬間と、最後の初期化の瞬間の切迫感と高揚感、本当泣けました。。
私個人的には中川クレアより花澤クレアのほうが好みでした。というのは、キャラクターがなんとなく、浦井さんと相性が良いような気がしたから、という理由と、声のお仕事をされているだけあって本当にきれいな声なんです。涼しげで少し甘くて、清んで、気持ちがよかった。
あと、終演後走り書きした自分のメモを見返していたら忘れていたことが。
クレアは恋人同士になって以降、オリバーの名前を頻繁に呼んでいるけれど。オリバーは「きみ」「あなた」が多かったような。セリフではなく歌が多いからか?なにか意味があるんだろうか。
ともかく、余白が多い演目だったなと思います。演者によっても解釈が分かれそうな。
再演されることを心から祈っています。